10年で男性育休は取りやすくなったのか?2004年の本『男性の育児休業』の問題提起と現状
こんにちは。まだ第二子、生まれていないのですが、早めに休みに入るので昨日ぬるりと最終出社日だった橋本です。
「男性の育休に関連した本とかあったら勉強になりそうだしブログのネタにもなるだろうな、いい本ないかな〜」と思っていたらそのものズバリな本がありました。
その名も『男性の育児休業』という本です。
ワークライフバランス関連の調査・研究をされている佐藤博樹さん、武石恵美子さんの本で、男性の育児休業取得状況やその背景、男性が育休を取れない・取らない理由、諸外国の男性の育児参画のための施策などが解説されています。これはなかなかよさそうだ!
……と思ったのですが、この本、刊行が2004年。10年以上前の本です。なんてこったい。
さすがにその内容をそのまま紹介しても、「で、今は?」みたいになってしまうので、今回は、本書の中で挙げられている「男性が育休を取れない・取らない理由」が、13年後の現在どうなっているのか(改善されているのか、それとも……)、見てみたいと思います。
ちょっと長くなってしまいましたが、どうかお付き合いください。
男性の育休取得率の推移
まず前提として、男性の育児休業取得率の推移はこんな感じです。内閣府男女共同参画局のサイトから。
出典:I-3-8図 男性の育児休業取得率の推移 | 内閣府男女共同参画局
グラフは平成26年(2014年)度までですが、その後、平成27年度の取得率は2.65%と出ています。民間企業の取得率としては過去最高とのことですが、あまり変わらないですね。
今回取り上げている『男性の育児休業』が出版された平成16年(2004年)度は、0.55%というさらに低水準だったので、一応伸びはしていますが、全体としては相変わらず、「男性の育児休業取得率は低いまま」と言えるでしょう。
男性が育休を取らない理由
『男性の育児休業』(以下「本書」)では、男性の育休が増えない理由として、以下を挙げています。
- 制度の柔軟性が足りない
- 所得保障が十分でない
- 乳幼児あり夫婦共働きが少数派
- 育休が就業規則に載っていない企業の存在
- 古い男女役割の意識
- 男性が育休を取りづらい職場の雰囲気
- 長時間労働(特に子育て世代の男性)
- 昇進への影響
それぞれの要素が、本書出版時の2004年と比べてどのようになっているか、見ていこうと思います。
制度の柔軟性が足りない
まずは育児休業の制度についてです。2004年時点での育児・介護休業法では、以下のような点が「制度の使いづらさ」として挙げられています。
- 育児休業申し出は1人の親につき1回まで。分割取得できない
- 専業主婦家庭では取得できない場合がある(労使協定でそのようにできる)
これが現在ではどのようになったかというと、こうなっています。
- 育休の分割取得(産後8週間以内の育休+別のタイミングでもう1回)が可能になった
- 専業主婦家庭でも男性の育休取得が法律でOKになった
分割取得について少し解説すると、男性の育休タイミングはいろいろありますが、産後の母体保護期間(産後8週間)と、妻の仕事復帰タイミング、子どもの保育園入園(慣らし保育)あたりが、妻側からのニーズが高いところ。(僕が会社で耳にした限り、ですが)
法改正によって、産後に8週間ほど育休を取り、期間をおいて、妻の仕事復帰タイミングでまた短期間休む、ということができるようになったということですね。これが平成21年の法改正、いわゆる「パパ・ママ育休プラス」の目玉のひとつです。
制度については、良い方向にアップデートされたといえるのではないでしょうか。
ただし、分割取得については、「連続した日を休業する」ことが必要なので、本書でもうひとつ言及されていた、「日単位の育休」はまだ取れません。例えば、毎週水曜日は育休にして、家庭に専念する、という考え方もありだと思うのですが、これが育休の制度上はまだできません。このあたりは今後改善されるとよいなと思います。
所得保障が十分でない
育児休業中の所得保障として、雇用保険から育児休業給付金が給付されますが、2004年時点では、月給に対する給付金の割合は、40%でした。
この給付金比率がどうなったかというと、現在は、67%。半分以下から、3分の2まで上がりました。これは、制度的にはけっこう大きな改善ではないでしょうか。
また、前回の記事でも触れたように、半育休で一部業務を担当し、会社から給与ももらうことで、最大で月給の80%まで収入を得ることができます(※)。
夫のほうが収入が多く、育休中の家計が苦しいから……というのは男性が育休を取らない理由としてよく上がるものですが、上記内容を知れば、イメージが変わるのではないかと思います。
※働き方によって社会保険料の免除有無が変わる場合があります
乳幼児あり夫婦共働きが少数派
ここまでが、法制度に関連した課題でしたが、ここからは、風土やライフスタイルの観点です。
まずは、「意外と、乳幼児を育てる共働き家庭って少数派」ということ。どういうことかというと、
妊娠を機に妻は退職→育児に専念できる→夫の育休は不要と考える
というケースが多いのです。
具体的には、2002年の厚労省調査によると、出産前に働いていた女性のうち67%が出産後では無職の状態でした。
子どもが生まれる前は共働きでも、出産を機に女性が仕事を辞めるというケースが多く、「だったら育児に専念できるよね、夫が休む必要ないよね」という雰囲気になるというわけです。
この傾向が、その後どうなっているかというと、2010年の時点で、もともと働いていて出産を機に退職した女性の割合は54%。
多少、出産しても働き続ける人の割合は増えましたが、まだまだ「出産→退職」のケースは多いですね。
育休が就業規則に載っていない企業の存在
育児休業は法律上、会社の就業規則にその記載がなくても、取得することができます。労働者から育休の申し出が会った場合、 特別な事情がない限り雇用主はそれを拒むことはできません。
なのですが、男女ともに、就業規則に書かれていないと育休は取れない、と考える人も多く、それが育休取得の妨げになっている、と本書では言います。
正直「え、育休のことが就業規則に書かれてない会社なんてあるの?」と思ったのですが、こちらも、厚労省の調査によると、意外とあります。
人数規模30人以上の事業所では約8%、5人以上だと約27%の事業所が、就業規則に育児休業制度の規定がないという状況です。10年前に比べると、その割合は減っている(記載のある会社が増えてきている)のですが、それでもこの数字は意外でした。
いまだに、小さい会社だと、会社として「社員の育休」を考えるところまで至らない場合も多いということなのかもしれません。
古い男女役割の意識
次に、仕事や家庭についての男女役割の意識についてです。
内閣府の調査によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考えに対する意識の変化はこんな感じです。
内閣府男女共同参画社会に関する世論調査より筆者作成
赤いほうが性役割分担に賛成、青いほうが反対です。
10年前から比べて、だんだんと「男は仕事、女は家庭」という考え方の人は減ってきていますが、まだ40%程度の人がそんな感じ。これはちょっとショックでした。化石かよ。
男性育休についても、「男が育児で休むなんて……」という人が職場に多ければ、育休は取りづらいでしょう。
男性が育休を取りづらい職場の雰囲気
こういった、変わらない意識や古い価値観が積み重なって、男性が育休を取りづらい職場の雰囲気が生まれます。
本書で取り上げられている2002年の調査(ニッセイ基礎研究所)では、男性が育休を取ることについて、職場の雰囲気はどうかというアンケートに対して、「非常に取得しにくい」という回答が54.5%、「どちらかといえば取得しにくい」が21.8%。合計すると、取得しにくいという回答が76.3%でした。
これが10年経ってどうなったでしょうか。
少し前ですが、2013年のライフネット生命の調査では、こんな結果が出ています。
出典:育児休業に関する意識調査 | 生命保険・医療保険のライフネット生命
「男性が育児休業を取得できる雰囲気がある」という質問に「あまりあてはまらない」「全くあてはまらない」と回答した割合が76.4%。ぜ、全然変わっていない……
以前の記事でも取り上げましたが、男性が育休を取らない理由の第一位は、「職場の雰囲気」です。これはけっこういろんな調査で上がっています。一例はユーキャンのもの。
出典:男性育児休暇取得に関する意識調査結果!|【ユーキャン】
10年経っても、男性が育児休業を取りづらい職場の雰囲気は変わっていません。
長時間労働(特に子育て世代の男性)
そもそも子育て世代の男性の労働時間が長く、業務繁忙・引き継ぎ困難というのも本書で挙げられている要素のひとつ。
昨年厚労省が出した過労死白書にある、性別・年代別の労働時間の推移を見ると、週に60時間以上働いている(=だいたい平日4時間残業、あるいは土日も出勤)人の割合で、30〜40代男性がぐんと高くなっています。
ただし、60時間以上働いている人の割合自体は、下がってきつつあります。まだまだ他国に比べると、日本は長時間労働の傾向がありますが、長時間労働については、昨年の電通の事件などもあり、注目が集まっているところですし、今後改善していくことを期待したいですね。
昇進への影響
最後に、男性が育児休業を取得して、昇進に影響する(評価が下がる)のでは、という懸念についてです。
2002年のニッセイ基礎研究所の調査では、社員として働いている人のアンケートで、育休を取ったことが評価にどう影響すると認識しているかの回答が以下のとおりでした。
- 評価に影響しない:19.4%
- 「どのような評価につながるのか不明確」:55.3%
- マイナス評価につながる:24.9%
いっぽうで、同じ2002年、企業側に対する調査で、育児休業の取得が昇進・昇給にどう影響するかというアンケートに対しては、「影響がない」「復帰直後は遅れるがいずれ同じ水準になり得る」と回答した企業が70%以上でした。
評価へのマイナス影響はない(挽回可能)が、育休を取る社員側で、ちゃんと把握している人が少ない、という見方ができるかと思います。
ここについては、その後同じような観点の調査結果などを見つけられなかったのですが、たぶん、あまり変わっていないのではないでしょうか。
もっとも、育休中はフルタイムで働かないわけですから、業務の成果をもとにした評価については、育休中の期間について言えば、育休を取らない人と育休を取った人で差が出るのは当たり前だと思います。(ただし、育休取得を理由に評価を「下げる」ことは不利益取扱いにあたるので法律違反です)
この点については、企業が社員を評価することを考えればどうしようもないことなので、育休を取る側が割り切るしかないでしょう。
ちなみに僕自身は、そもそも自分の人生における時間の優先順位として、この時期については、働くよりも育休を取ることが大事だ、と考えているので、あまり気にしていません。
まとめると
さて、やたら長くなってしまいましたが、2004年の本『男性の育児休業』で挙げられている、男性育休の取得しづらさの要因と、それが10年経ってどのように変わったか、超ざっくりまとめるとこんな感じです。
- 制度の柔軟性が足りない → 分割取得可能になるなど、着実に改善されている
- 所得保障が十分でない → 育休給付金率が40%→67%に。着実に改善されている
- 乳幼児あり夫婦共働きが少数派 → 出産を機に退職する女性の割合は10%ほど減ったがまだ50%くらいは退職する
- 育休が就業規則に載っていない企業の存在 → 就業規則に育休の記載がない企業が5〜10%減った
- 古い男女役割の意識 → まだ40%くらいの人が「男は仕事、女は家庭」の考え方を支持
- 男性が育休を取りづらい職場の雰囲気 → 全然変わっていない
- 長時間労働(特に子育て世代の男性) → 労働時間自体は短くなってきているが、子育て世代が一番忙しいのは変わらず
- 昇進への影響 → 企業が社員を評価する仕組みの上ではなんともしがたい
青字はプラス要素、赤字は「まだダメじゃん」要素です。
ひとことで言うと、「制度は整ってきているが、まだまだ風土が追いつかない」という感じでしょうか。
育児休業の制度や給付金率などは、改善されてきており、国もそれを積極的に広報していますが、実際に働く男性が育休を取れるかというと、職場の雰囲気、言い換えれば風土がまだまだ阻害要因になっています。風土は、価値観や意識から形づくられるもの。ワーク・ライフ・バランスや男女の働き方など、人の考え方が変わっていかなければ、風土も変わりません。厚労省がすすめている「イクメンプロジェクト」などは、まさにこの点を改善しようとしているのだと思います。
個人個人でも、働き方に関するニュースや最新の情報をキャッチアップしたり、SNSなどを使ってそれをシェアしたり、意見を述べたりすることで、風土や空気を作っていくことはできるでしょう。
僕も微力ながら、うぇいうぇいやっていきたいと思います。
ではでは。