パパ半育休からの時短なう

育児休業を取りながら働く半育休の話を中心に、育休の制度や子育てについてつらつらと。

『マタハラ問題』と働き方改革

こんにちは。育休で料理もするようになり、張り切って作るのはよいのですが、娘(2歳9ヶ月)の食べ残し消費をいつも計算に入れ忘れじわじわ体重と体脂肪率が上昇傾向の橋本です。

育休関連でまた一冊本を読んでみました。「マタハラ」という言葉を世に広め、大きなムーブメントを作るきっかけのひとつになった『マタハラ問題』という本です。 マタハラって、今の少子高齢化社会の課題が凝縮したような社会問題です。

マタハラ問題 (ちくま新書)

マタハラ問題 (ちくま新書)

 

 

働く女性が妊娠・出産・育児を理由に退職を迫られたり、嫌がらせを受けたりする「マタニティハラスメント(マタハラ)」。労働局へのマタハラに関する相談は急増し、いまや働く女性の3人に1人がマタハラを経験していると言われている。本書は「NPO法人マタハラNet」代表による「マタハラ問題」の総括である。マタハラとは何なのか。その実態は、どのようなものなのか。当事者の生の声から問題を掘り下げる。筑摩書房の紹介ページより)

ドン引きするマタハラの数々

読んでまず衝撃を受けるのは、著者の小酒部さんを始めとした、本書で語られるエピソードの数々。

産後の復職について難色を示され、社長からは「家に帰って奥さんと子どもがいないのは、旦那さんが嫌がるだろう。オレだったら嫌だ」「休んで、母親としての仕事をちゃんとしろ」とも言われた。担当業務の引き継ぎを強要され、結局担当していた業務を外された。

労働局雇用均等室に相談もした。そこで受け取ったパンフレットを看護師長に見せて、相談したら、「看護主任は妊娠したから辞めろと言ったわけじゃなく、頭に血が上ったんでしょう。労働局に訴えて、医院側に監査が入ったら、職員全員でこちらの主張を言って、あなたに不利益な証言をして、あなたを困らせてあげます。そんなことになったら、母体にも良くないから、よく考えなさい」と言われた。

夜勤を免除してもらえず、休憩なしの夜勤を続けた後に流産した。病院は「10週に満たない初期流産は遺伝子の問題だから」と良い、Oさんは流産した翌日もまた夜勤をさせられた。Oさんにとっては不妊治療してやっと授かった命だった。

などなど、信じられないようなハラスメント事例が次々と出てきます。電車で読んでいたら怒りのあまりひと駅乗り過ごすレベルです(実話)。女子差別撤廃条約の締結、男女雇用機会均等法の制定から30年以上経った21世紀の社会とは思えません。

何がマタハラの背景にあるのか?

マタハラが起こる背景として、本書では「性別役割分業の意識」と「長時間労働」の2つの要素が挙げられています。

 経済先進国の日本で、未だにマタハラ問題がはびこる理由は大きく二つある。
 一つは性別役割分業の意識。男性が外で働いて、家事・育児は女性が担ってという家庭における夫婦の責務や役割を明確に区別する考え方である。そして、もう一つが長時間労働。マタハラNetのデータ調査でも、「残業が当たり前で8時間以上の勤務が多い」が約38%、「深夜に及ぶ残業が多い働き方」が約6%と、合計約44%と長時間労働が横行している職場でマタハラが起こっていることがわかった。

この考察は、小酒部さんが代表を務めるマタハラNetが2015年に出したマタハラ白書(マタハラの被害にあった女性にアンケートをまとめたもの)の結果からきています。

マタハラの背景1:性別役割分業の意識

白書によれば、マタハラをしてきた相手として最も多いのは「直属の男性上司」が最も多く、被害を受けた女性の半分以上が挙げています。

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(出典:マタハラ白書

そして、マタハラが起きた理由として多く挙げられているのは、「上司・同僚の妊娠や子育てに対する理解のなさ」「上司・同僚の価値観の問題」など。 

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(出典:マタハラ白書

ここで言う「上司・同僚の価値観の問題」の具体的な内容としては、推測になりますが、「子どもができたら女性は仕事をやめて子育てを優先すべきた」という考え方と思われます。本書を読むと、そういった言葉をかけられるマタハラエピソードが数多く載っています。

正直「とっくに21世紀なのにまだこれかよ」と思うのですが、実際にまだ世の中の意識としてそういった性役割分担の考え方は根強いです。内閣府の調査によれば、2016年の「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対して、40%が「賛成」と考えているという結果が出ています。

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内閣府男女共同参画社会に関する世論調査より筆者作成

マタハラの原因になる価値観も、こういった旧態依然とした社会の雰囲気が職場という環境で結実したものと言えるかもしれません。

マタハラの背景その2:長時間労働の影響

もうひとつの背景として挙げられているのが、長時間労働。マタハラ白書のアンケートでは、「マタハラを受けたときの労働時間はどうだったか?」という質問に対して、長時間労働の傾向である(「残業が当たり前で8時間以上の勤務が多い」「深夜に及ぶ残業が多い」合計)と答えた人の割合が44.1%とのことでした。

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これだけだとちょっとわかりづらいので補足します。そもそも日本で長時間労働をしている人の割合がどれくらいかというと、2012年時点で、週49時間働いている(平均で1日2時間程度残業している)労働者の割合は、全体で22.7%、女性に限ると10.6%となっています。*1

マタハラ被害者のアンケート回答者の具体的な労働時間はわからないので、不正確なところもありますが、それにしても、長時間労働の割合が、日本の女性全体では10.6%、いっぽうマタハラを受けた女性は44.1%というのを見ると、労働時間の長さがマタハラの起こりやすさにつながっている可能性は高いと言えるでしょう。

マタハラは「働き方の違いに対する最初のハラスメント」

本書では、マタハラを「働き方の違いに対する最初のハラスメント」と呼んでいます。重いものが持てないなどできる仕事が変わる、また働く時間も短くなる。言い方を変えれば「残業ができるフルタイムの社員」と異なる働き方であることに対するハラスメントです。この「働き方の違い」は妊婦に限ったことではありません。時短勤務で働く社員が後ろ指をさされる、父親が育児にコミットすることをよしとしない(パタハラ)など、子育て中の親が働きづらい職場も、背景は共通しています。

しかし、働き方の違いは、これから、妊娠・出産・子育てに限った問題ではなくなっていきます。高齢者人口が増え、親の介護が理由で働き方を変えなければならない人が増えてくれば、マタハラをしていた当人が、働き方の違いに対してハラスメントを受けるという可能性もあります。誰もが「残業ができるフルタイムの社員」の地位をキープできるわけでないのです。

だからこそワークライフバランス施策が重要になってきます。本書では、労働人口が減っていく今後を見据えて、働き方改革を企業戦略として掲げるべきだと述べ、実際に社員の柔軟な働き方を実現しているいくつかの企業の例を紹介しています。

なお、小酒部さんが2016年11月に出版した二冊目の著書『ずっと働ける会社』では、社内の働き方改革を実現させ、かつ業績も伸びている11の企業の事例が紹介されています。「うちは零細中小企業だからそんな余裕はない」と思った方は、こういった事例を参考にしてみるのもよいのではないでしょうか。

ずっと働ける会社  マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!

ずっと働ける会社 マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!

 

 

「働くこと」の価値とは

最後に、マタハラ問題解説とは少しずれますが。

本書で登場するマタハラ上司の1人は、妊娠がわかった女性に対してこのように言います。

 妻が働くのは経済的にやっていけない夫婦の場合であって、君の場合はご主人が働いているのだからそうではないだろ。引き際は考えているのか?

男女性別役割の古い価値観がうかがえる発言ですが、もう少し踏み込んで考えると、「働くのは生計を立てるためであり、食べていけるなら働けなくてもよい」という発想が根底にあると言えます。

僕自身、あまりにひどいマタハラエピソードを読んで、「そんなに醜悪な環境なのであれば、仕事を辞めてしまえばよいのではないか」と思うこともありました。*2でもいっぽうで、本書に登場するマタハラ被害者の女性には「今の仕事にやりがいがあり、やり続けたい」と考えていた人も多いのです。単にお金を稼ぐために、給料のために働いているのではなく、働くことは生きることの一部であり、”より良い人生”のためにかけがえのないことであるーーそんな言葉にならない想いを感じた気がします。働くことの対価は、お金だけでなく、その人にとっての生きがいである。そんな視点を持つことが、これからの社会ではきっと重要になっていくでしょう。言葉にすると、あまりにあっさりして簡単なんですけどね。

 

マタハラ問題 (ちくま新書)

マタハラ問題 (ちくま新書)

 

目次
第1章 私のマタハラ体験―子育てサポート“くるみん”認定企業でマタハラに遭う(一度目の流産
あと2〜3年は、妊娠なんて考えなくていいんじゃないの? ほか)
第2章 「マタハラ問題」のすべて―マタハラ4類型から考える(マタハラとは何か
マタハラは感染力の高い伝染病 ほか)
第3章 こんなにある!マタハラの実態―実態調査から見えること(マタハラ白書―実態調査から何がわかるか
マタハラの加害者はだれか ほか)
第4章 私たちになにができるか―働き方のルールが変わる(日本の労働者には武器がない。唯一の武器は?
ハラスメント大国、日本! ほか)
第5章 マタハラ解決が日本を救う(契約社員だった私が「世界の勇気ある女性賞」を受賞する
マタハラNetの活動について ほか)

*1:出典:平成27年版厚生労働白書 - 人口減少社会を考える - |厚生労働省

*2:人材の流動性が高まり、転職しやすい社会になれば、人員流出でだんだんとブラック企業は淘汰されていくでしょう。マクロの視点では、それが望ましい姿だと思います。保育園に入園できず転職できないという問題はまた別にありますが……