「男も育児するなんて当たり前」でありつつも、「イクメン」を叫ぶ理由
こんにちは。橋本です。
先日、ブロガーで作家のちきりんさんがこんなツイートをしていました。
「イクメンはエライ」的な価値観は変。本人達が合意してれば分業方式でも分担方式でもどっちでもいい。そして、分担方式(仕事も家事育児も分担)を選ぶなら、イクメンなんて「やってあたりまえのことをやってるだけ」なのだから、必要以上に褒め称える必要もない。
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2017年10月5日
本来自分達(パートナー間)で話合って解決すべき問題を、「社会のプレッシャー」を利用して解決しようとする人がイクメンブームを支えてる。こういう「みんなやってる」方式を利用しないと自分の家庭の問題が解決できない人は、それにより他人にまで無用なプレッシャーをかけてるという自覚が無い。
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2017年10月5日
「男性の家庭進出が大事だ、男性ももっと家事育児をやろう、イクメンになろう」という意見に対して、
「本来、女性だけでなく男性も育児するというのは当たり前のことなんだから、イクメンなんて言うのはおかしい」
「それぞれのカップル間で納得できる家庭運営をすればいいのであって、男性が/女性がこうするべきなんていう風潮はおかしい」
という反対意見ってけっこう多いのですが、今回はこれに反論*1してみたいと思います。
その1:「男性が家事育児するのは当たり前。イクメンなんていらない」
まずはこちらの意見。
最初に言っておくと、男性が家事育児するのは当たり前、というのはその通りだと思います。僕もそう思っています。
イクメンを増やすのは大事ですが、イクメンだから偉いかというと、別にそうではなく、「妻にイクメン認定されてようやく対等」くらいではないでしょうか。
でもだからといって、「当たり前のことだから、言わなくてよい」で終わるかというとそうではない。
というかそもそも、男性が家事育児するのが当たり前、と思っている人がほとんどかというと、そういうわけでもありません。
世論調査で経年データがとられている、性別役割分業についての意識についての調査を見てみます。
内閣府男女共同参画社会に関する世論調査より筆者作成
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考えに対して、赤が賛成、青が反対というグラフです。
ここ二十数年でじわじわと反対多数になってきてはいるものの、まだ40%近くの人が男女の性別役割分業に賛成しています。
「いやいや、そうは言っても若い世代はそういう風に思ってないでしょ」と、思うかもしれませんが、年代別データはこちら。
子育て世代真っ只中の30-40代は若干「反対」の割合が大きいですが、顕著というほどではなく、残念ながらあまり世代差がないということがわかります。
「イクメン、なんて言うけど、そもそも男性が家事育児するのは当たり前だよ」という意見は正論なのですが、そういう方はそもそも、上のグラフでいう性別役割分業反対派にあたります。
イクメンムーブメントが目指すところは、全体の4割を占める性別役割分業賛成派、「男性が家事育児なんてするもんじゃない」という考えの人に「いやいや、男性が家庭参画するのカッコいいですよ!」とアピールすることなのです。
というわけで「男性が家事育児するのは当たり前。イクメンなんていらない」という意見に対しての回答は
「いえ、まだそれが当たり前じゃない人もいっぱいいるので、そういう人に変化を促そうとしているのです」
になります。
その2:「それぞれのカップルで納得のいく役割分担ができればそれでいい。周りがどうこう言うことはない」
次はこちら。そもそも世論とか人々の意見とか関係なくて、それぞれのカップルで話し合って決めればいいじゃん、という意見です。
こちらもまず言っておくと、意見自体は正論です。
僕も、イクメンムーブメントはまだまだ必要だと思いますが、例えば友人夫妻に「ねえねえ、ちゃんと家事の分担してる?平等にやってる?夫が家事育児しないとかマジありえないよ」なんて、言いません。
最終的には、それぞれの家庭のことはそれぞれで決めればいいでしょう。
でも、社会に対して「みんな、自分のアタマで考えよう、以上!」と言えばいいかというとそうではない。
なぜなら、そもそも今の日本の社会には、女性が社会に出づらいバイアスがあるからです。
たとえば賃金格差。
こちら、日経新聞の記事からの引用ですが、2016年時点で、女性の男性に対する賃金比率は約73%。けっこう差があります。
出典:女性の賃金、16年は男性の73% 格差解消なお遠く :日本経済新聞
性差で賃金差・収入差が生まれやすいということは、夫婦の役割を考えたときに「夫のほうが稼げるから家のことをやるより仕事に集中したほうがよい」となりやすいということ。(あくまで平均するとではありますが)
そして、この賃金格差ともかなり関連しますが、このブログのメインテーマでもある育児休業の取得率も、男女の差はとんでもなく大きいです。
取得率は、女性が80%強に対して、男性はたったの3%です。
上の図だとよくよく数字をみないとわからないかもしれませんが、同じグラフにまとめるとこうです。
なかなかすごくないですか、この男性陣の低空飛行っぷり。
男性の育休取得率が低いというのは、男性が家事育児に参画しづらい社会であるということのあらわれです。
こういった環境では、夫婦で家庭運営を考えるにも、妻がキャリアを重視するという選択肢を取ることのハードルが高すぎます。
むしろ夫婦どちらも同じくらい仕事に力を入れて家庭のこともやって・・・というやり方ですら、けっこうな努力が必要になるでしょう。
ちなみに、子どもが生まれる前は男女平等かというと、そういうわけでもありません。たとえば、新卒採用の総合職における男女割合はこんな感じ。マイナビニュースからの引用です。
出典:総合職採用者の女性比率は22%、採用倍率は43倍に - 厚労省公表 | マイナビニュース
子育て・家族運営というフェーズに突入する以前に、相応のジェンダーギャップが存在するわけです。
イクメン(や、ここではイクボスも非常に重要)ムーブメントがこの問題に対してもたらす価値は、女性が働きづらいバイアスを是正するということです。
働くという観点で社会の主たるプレイヤーである企業がイクメン・イクボスムーブメントを取り入れ、企業運営に影響を及ぼしていけば、長時間労働の是正、男性の育休取得率のアップなどによって、男性の家庭参画が進み、その分女性が取れる選択肢が増えていきます。
特にイクメン・イクボスの場合、「男性の側から」の動きだというのも重要です。
それ自体がジェンダーギャップのひとつですが、多くの企業では意思決定者に占める男性の割合が多いというのが現状。政府も叫んでいる「女性活躍推進」のための会議の出席者がほとんど男性、なんてギャグみたいな光景も珍しくないでしょう。
そんな状況で女性の側にフォーカスして働きやすさを高めようとしてもうまくいくはずありません。そうではなく、男性が自分たち男性に目線を向けて、イクメン・イクボスを増やそう!という方向性で施策を打てば、言い逃れのしづらい環境になります。そして男性の家庭進出が進めば、玉突き的に女性がビジネスのキャリアを積めるようになるわけです。
もちろんそれだけで男女の賃金格差などが一気に縮むということはないかもしれませんが、長期的にはこういった様々な指標における男女のギャップが解消されていく一助になるでしょう。
ということで、「それぞれのカップルで納得のいく役割分担ができればそれでいい。周りがどうこう言うことはない」という意見に対しての回答は
「そもそも社会環境において女性が社会で活躍しづらい状況なので、普通に考えるとバイアスがかかる。イクメン・イクボスムーブメントはその環境を変えるために意味があるんです」
となります。
さいごに:イクメンムーブメントは「ハンドルを逆に切ること」
他にも「イクメン批判」のロジックはあるかもしれませんが、とりあえず思いついたところで反論を書いておきました。
そもそもイクメンを批判する方の多くは、自身がちゃんと考えて、カップル間でそれなりにバランスのとれた家庭運営をされているのだと思います。
そういった方々から見れば、イクメンムーブメントに価値はないというのはまあそうでしょう。
ただやっぱり、日本全体を見ると、いたるところにジェンダーギャップはあります。そのギャップを埋めるためにあえて「当たり前である」イクメンをフィーチャーして盛り上げているわけです。
作家の森博嗣さんがエッセイで言っていた表現なのですが、男女平等を自動車でまっすぐ走ることに例えると、これまでは、ハンドルをずっと「男性優位」のほうに切った状態でした。
じゃあまっすぐ走るようにハンドルをニュートラルな状態に戻すことが平等を実現する方法かというとそうではなくて、すでにかなり、もとの道からずれた方向に走っているのを、是正しなければいけない。なら、ハンドルを逆側に切らなければいけない。そのあらわれが、レディースデーやらなんやら、「逆に」女性を優遇する仕組みなのだと。
イクメンムーブメントもそういうことなんだろうなというのが僕の考えです。
あまりにも「男性は仕事!家庭など顧みない!」という方向に切っていたハンドルを、逆に切る。一見すると「それじゃまっすぐじゃないじゃん」という感じなのだけど、本当に走るべき道にはまだまだ戻っていない、と。
いずれ元の道に戻って、ハンドルを本当にニュートラルにしてよいときが来るでしょう。そのときには「イクメン」はきっと死語になっているはず。そういう日が早く来れば良い、と思っているという点では、僕もイクメンが嫌いな人と同じ思いです。
ではでは。
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